2012年11月29日、「OGCシンポジウム2012~スマートジャパン実現に向けて」が霞が関プラザホールで開催された。そこで行われたパネルディスカッション「ビッグデータ利活用促進のために」を報告する。
民間企業や行政機関の情報システムに時々刻々と流入し、蓄積されていく膨大なデータ。いわゆるビッグデータを用いて、新たなイノベーションや雇用の創出、街づくりなどに役立てようという試みが相次いでいる。ただ取り組みを成功させるには、プライバシー保護などのルール作りや継続的な人材育成が不可欠。本パネルディスカッションを通じて、具体的な今後の利活用推進に向けた課題と解決策について意見が交わされた。
[基調講演] (敬称略)
渡辺 克也 総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長
[パネリスト]
渡辺 克也
総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長
江口 純一
経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課長
下道 高志
日本オラクル株式会社
製品事業統括 製品戦略統括本部 戦略製品ソリューション本部 Master Principal Sales Consultant
中島 淑乃
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
エンタープライズビジネス第2本部公共ビジネス推進担当部長 業務推進チーム チー ム長
星 智恵
ネットワンシステムズ株式会社
サービス事業グループ サービスソリューション本部 ネットワークアカデミー第3チーム リーダー
松山 慎
F5ネットワークスジャパン株式会社
公共・官公庁セールス アカウントマネージャ
[ファシリテータ]
山井 美和
株式会社インターネットイニシアティブ 執行役員
ビッグデータに注目集まる理由
パネルディスカッションに先立つ基調講演で、総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の渡辺克也氏は「諸外国が、こぞってビッグデータに着目している。米国ではヘルスケア市場において年間3000億ドル、またEUの公共セクターでは年間2500億ユーロの価値創出が期待されている。ICT(情報通信技術)の進展によりデータの生成・収集・蓄積が容易になってきたことが背景にある」と語った。
日本でも市場創出に対する期待は大きい。続いて行われたパネルディスカッションのなかで、経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課長の江口純一氏は、「日本は、世界有数のデータ保有国だ。北米、欧州に次ぐ400ペタバイトものデータが国内に存在するとの報告もある。見過ごしていたデータも別の角度から分析することで新たな発見につながる。すでに、医療、農業、エネルギー、ロボットなど、さまざまな分野において価値創出への取り組みが始まっている」と、ビッグデータを梃子としたイノベーション創出の重要性を強調した。
ビッグデータのもたらすメリットは、新たな産業・雇用の創出だけに留まらない。渡辺氏は、「公共機関や民間が収集・蓄積する気象データ、地中のボーリング(地盤)データなどを防災や減災などに役立てることができる」と指摘。また、日本オラクル株式会社 製品事業統括 製品戦略統括本部 戦略製品ソリューション本部 Master Principal Sales Consultantの下道高志氏は、「米シカゴ警察では、地域における犯罪行為を未然に防ぐためにビッグデータを活用している。ビジネスを生みだすだけでなく、安全も生みだせるのがビッグデータだ」と、生みだされる多様な価値を示唆した。
利活用促進にあたり新たなルールを整備
ただ、ビッグデータのさらなる活用を促進するには、乗り越えるべき課題もある。
膨大なレセプトデータを分析し健康保険組合や製薬会社への情報提供を行うシステムの構築などの実績を挙げている伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 エンタープライズビジネス第2本部 公共ビジネス推進担当部長 業務推進チーム チーム長の中島淑乃氏は「国内には、個人情報保護などの理由で廃棄される有益な未利用データがかなり存在する。一方、データの公開にあたっては、データのオーナシップとプライバシー、全体の利益に対するコスト負担を明確にしなければならない。特に、街づくりでは多くのステークホルダーが関わる中で合意形成が難しい場合もある。調整役が必要であると同時に、プロジェクトを牽引するトップのリーダーシップも大切だ」と指摘する。
システム面でも留意すべき点がある。F5ネットワークスジャパン株式会社 公共・官公庁セールス アカウントマネージャの松山慎氏だ。「個人情報を含む医療情報といったプライバシーに関わるビッグデータを流通させるために、ネットワークには、強固な認証基盤整備が必須。さらに、データおよび処理の様々なトラフィックの爆発的増加に対応した帯域管理や、個人情報/機密情報等を保護するセキュリティ、データフォーマット調整などの要件がある」と語った。
各国が火花散らすデータ利活用人材の育成
ビッグデータ時代の到来とともに、もう一つ、課題となっているのが、データ利活用を担うデータサイエンティストやビッグデータエンジニアの育成だ。ネットワンシステムズ株式会社 サービス事業グループ サービスソリューション本部 ネットワークアカデミー第3チーム リーダーの星智恵氏は求められる人材像として「さまざまなアイデアを形にするため、ビジネスと技術の両面において幅広いスキルや能力が求められる。さらに実際に、統計学的手法によりデータを用いて、自ら効果を示せる人材が必要だ」と例示した。
ところが、「統計学や機械学習などの高等訓練経験を有する大学卒業生数(2008年)は、米国の24,730人、中国の17,410人、インドの13,270人。日本は3,400人に留まっている」と、渡辺氏は、日本における人材不足傾向を指摘する。
実践的な人材を継続的に育成する上で、星氏は「ビッグデータの利活用の段階を成熟度とし、それに応じた人材育成計画を立案・実行すること」と提言を行った。
江口氏は、「経産省では2012年9月に公表した産業構造審議会情報経済分科会人材育成WG報告書でも指摘しているように、IT人材は異分野とITを融合し、新たな製品・サービスを生みだせるITイノベーション人材と捉えている。国も、そうした人材のキャリアデザインを支援していく」とバックアップする姿勢を示した。
最後に、ファシリテーターである、株式会社インターネットイニシアティブ 執行役員の山井美和氏は次のように語った。
「ビッグデータは宝の山だが、課題としては、人材開発、技術開発と標準化、制度面の課題がある。海外の動向やステークホルダーとの連携を視野に入れながら、日本がグローバル市場をリードしていくべき」との展望を示し、ディスカッションを締めくくった。
(文責・柏崎吉一/エクリュ)