オープンなデータ活用に向けたインフラ&制度整備を進め
地域の人々の視点に立ったデジタル社会実装を実現しよう!
パネルディスカッション「デジタルソサエティを実現するために」【パネリスト】
今川拓郎氏:総務省 情報流通行政局 情報通信政策課長
奥田直彦氏:内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官
佐々木啓介氏:経済産業省 経済産業政策局 産業創造課長 新規事業創造推進室長 大臣官房 第四次産業革命政策室長・政策審議室長
【モデレータ】
中村彰二朗氏:OGC代表理事、アクセンチュア株式会社 福島イノベーションセンター長
Cloud by Defaultを基盤とした「ソサエティ5.0」の構築をテーマに、行政のキーマンによる数々の示唆を含むセッションが行われたOGC シンポジウム2019。その締めくくりとなるパネルディスカッションでは、デジタル ソサエティを実現する上で必要なテクノロジーやシステムの運用、シチズンセントリックな視点に立った法整備や制度の充実といった重要テーマについて、さまざまな意見が交わされた。
デジタルの地域実装に向けて多彩なソリューションを展開中
セッションでは3人のパネラーから、ソサエティ5.0の取り組みに関連した発表が行われた。総務省の今川氏は、総務大臣である石田真敏氏が地方へのソサエティ5.0の浸透に熱意を注いでいる点を強調。2019年1月25日に、全国47の地域および1700以上の市町村長に向けて送られた「総務大臣メール:Society5.0時代の地方」を紹介する。
「デジタル技術を地域に実装していくには、まずそれぞれの首長にソサエティ5.0とは何かを知ってもらうことが重要だと大臣は考えています。そこでデジタル技術がどういうもので、その導入によってどのような変革が起こるかを啓発する第一弾として、このメールが送られました」。
メールでは「持続可能な地域社会の構築」に向けて、AI やIoT 、ロボティクスなどを取り入れながら、地域住民のニーズに即した施策を展開していくことで、ソサエティ5.0への具体的な足がかりが得られると呼びかけている。
さらに今川氏は、現在各地で進められている地域実装の取り組み事例についても紹介する。ここではドローンや、クラウドとIoTセンサーの組み合わせ、ソサエティ5.0のネットワーク基盤として期待される5Gなどの要素技術が挙げられたが、中でも実用化が進んでいるのが、多言語音声翻訳だ。これはNICT(情報通信研究機構)が開発した技術で、日・英・中・韓の4か国語でTOEIC800点レベルの翻訳が可能というもの。2019年度中には、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、スペイン、フランス、ポルトガル(ブラジル)、フィリピンの8言語でも同等の翻訳精度が実現されると今川氏は説明。
「このソフトを入れたスマートフォンやタブレットを使って、たとえば自治体の窓口で職員と外国人住民が対話するとか、駅で訪日外国人客に案内をする、学校で外国人の生徒や保護者と先生がコミュニケーションを取るなど、多彩な用途が考えられます」。
すでに「VoiceTra(ボイストラ)」というアプリがAndroid と iOS向けにリリースされており、誰でも無料で利用できるという。
日本発の分散型データガバナンスモデルの創造を目指す
一方で、経済産業省の佐々木氏は、現在グローバルでどのような取り組みが行われ、日本がどう対応しているかを紹介する。そのトピックスの一つが、「第4次産業革命センター」だ。
「これは世界経済フォーラム(ダボス会議)と連携したプロジェクトで、イノベーションの社会実装を阻む『ガバナンス・ギャップ』の解消を目標にしています。今後はこの動きを、G20各国に拡大していく計画が決まっています」。
テクノロジーが日進月歩で変化していくその動きに、現在のところ政府や政策が追いついているとは言い難い。このギャップの解消が、第4次産業革命の推進には不可欠だ。プロジェクトには産業界、学会、市民社会、政府および自治体、国際機関など多様な関係者が参画している。
2017年3月には、サンフランシスコにセンター第一号が設立され、わが国では2018年7月に、「一般社団法人 世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター」が設立された。
佐々木氏は、日本センターにおける3つのテーマ「データ政策」、「モビリティ」、「ヘルスケア」の中でも、とりわけデータ政策における新たな分散型データガバナンスモデルの必要性を訴える。今後、さまざまなデータが爆発的に増えていく中で、データアクセスに対するコントロール権や、データベースの構造、データ所有のあり方などが大きく変化してゆくのは確実だからだ。
「そこで従来の一極集中型ではなく、分散型でなおかつ安全に利用できるアーキテクチャが必要になってきます。しかし現在のGAFAや国家独占型の場合、人々の自由なデータ活用を制限する懸念がある。わが国としてはそうしたものとは異なる、第4の選択肢をグローバルに提案していきたいと考えています」。
その実現には世界の思いを同じくする人たちとの連携が必要であり、2019年の大阪のサミットでも各国に強く呼びかけていきたいと佐々木氏は語った。
デジタル・ガバメントの実現に向けた各府省の横連携を
内閣官房の奥田氏は、「今川氏の地方での取組、佐々木氏のグローバルな構想を受け、足元の政府はどのように取り組んでいくのかをお話ししたい」と語り、「デジタル・ガバメントの推進」と題して行政サービスにおける今後の展望を紹介する。
地方や民間のデジタル化を推進する上で二本柱となるのが、「横断的施策による『行政サービス改革』の推進」と「各府省計画の策定と個別分野のサービス改革」だ。その中の重点施策として、奥田氏は「添付書類の撤廃」、「オンライン化の徹底」、「複数手続のワンストップでの処理」の3つを挙げる。
行政サービスを紙ベースからデジタルベースに転換し、各種届出はもちろん、それに付随する本人確認や証明書類の提出なども、すべてネット経由で完了できるようにする。また、引越しや介護、死亡・相続などの際に、あちこちの役所や窓口に足を運ぶ煩雑さを解消する、ワンストップの行政対応などを積極的に進めていくことが、国民視点でのデジタル・ガバメントの実現には欠かせない。
「加えて、行政内部のデジタル化の徹底にも注力しなくてはなりません。まず、情報システムの予算・調達の一元化です。現在は予算・調達・人材・体制の各面でバラバラなのを、政府全体の総合調整機能を持つ内閣官房で一元的に管理できるように変革する必要があります」。
それが実現すれば、政府の情報システム調達に関わる予算の要求から執行までをトータルで管理できるようになり、政策実行におけるアジリティの向上とコストの削減に大きく貢献することになる。もちろんこの実現には、従来の縦割りから横の連携を可能にする仕組みへと組織改革を行っていく必要がある。奥田氏は、「制度や財源、人材の各面から各府省の協力を得て、十分に検討・協議を重ねた上で実現していかなくてはなりません」と今後の展望を語る。
自由のデータ活用を保証するオープンなインフラ整備を!
終盤では、パネラー全員参加によるパネルディスカッションが行われた。その中でもひときわ議論が集中したのが、プラットフォーマーの問題だ。佐々木氏は「世界各国の動きを見ていると、グローバルレベルのプラットフォーマー企業が、その国の都市のデータを独占的に取り扱う例が多く見られます。これは住民や自治体が、自分たちのデータを自由に使えない状況を生みかねない」と指摘。そうした事態を回避するために、将来的にベンダーが変わったとしても安定的にデータを活用できる、よりオープンかつユーザー起点の社会インフラを整備する必要があると訴えた。
これに対して佐々木氏も「さまざまなバリューチェーンを超えて、共通のプラットフォームデータ共有を可能にすることが、真の意味でのスマートシティの実現につながる」と主張。今川氏も「プラットフォーマーが握るデータ流通のあり方を、シチズンセントリックな視点できちんと考えていくことが今後の大きな課題です」と語る。
最後にモデレータの中村氏は、「ハードウェアなどの具体的な展開は地域ごとのインフラ整備として着実に進めつつ、プラットフォームについては、オープンな形で最適化しながら世界にモデル提案していければと考えています。これからも大いに議論を重ね、ともに連携して取り組みを進めていきましょう」と呼びかけ、パネルディスカッションを終了した。
(ライター・工藤 淳)