2013年12月2日、「OGCシンポジウム2013・世界最先端IT社会実現に向けて」が全国町村会館で開催されました。その中のセッションキーノートならびにパネルディスカッション「ニュービジネス創出を促すビッグデータ活用のECOシステムとは」を本稿でレポートします。
日本企業における国際競争力の強化に膨大なデータの活用が重要視されています。地域の活性化や人材とニーズのマッチングにおいても自治体や行政機関が保有するビッグデータの利用が注目されています。本パネルディスカッションでは、具体的な事例を交えながら新たな事業や価値創出のために必要な産官学の連携などのポイントを探りました。
間宮淑夫 経済産業省 情報政策課長 [パネリスト] 間宮淑夫
経済産業省 情報政策課長
平川健司
電通 プラットフォーム・ビジネス局 事業企画部長
高橋智之
会津若松市 企画政策部企画副参事
日本オラクル 製品戦略事業統括本部 戦略ビジネス推進部 部長 兼 エバンジェリスト
セッションキーノートでは、経済産業省 情報政策課長の間宮淑夫氏が次のように述べました。
「日本のお家芸だったものづくりの分野で、アジア諸国が存在感を増しています。品質や価格の競争は激化しており、世界レベルの競争に勝つには新たな価値創出が求められています。半面、ネット接続端末の爆発的増加により消費者や需要家の利用ニーズが可視化しやすくなっています。生産性の向上やマーケティングに、可視化された膨大なデータを活用できるかどうかが重要となっています」(間宮氏)。
間宮氏は、具体例の一つとしてスマートメーターから得られる消費電力量の変動データを挙げました。
「省エネや環境保全のほかにも、利用者宅における見守りに役立てたり、家電の保守ビジネスに活用したりできる可能性があります」(間宮氏)。
すでに先行する米国ではビッグデータを活用した製造・小売、健康・公共分野における多様な分野でビジネスが生まれているといわれています。
オープンデータについては、日本でも現在、各府省が保有している各種統計データなどを機械判読可能で二次利用可能なデータとして開示するために環境の整備が進められています。
観光、ヘルスケア、防災などを通じて地域を活性化
電通のプラットフォーム・ビジネス局 事業企画部長 平川健司氏は、ある商圏に入った利用者のスマートデバイスなどにクーポンを自動でメール配信することができる「ジオフェンス」というサービスを紹介しました。
「ジオフェンスを使うと店舗のある場所から200~300m圏内の人のスマートデバイスにメールを配信することができます。近くに店舗がなければクーポン情報もスパムメールと見なされ、クーポンの利用率や商品の購入率の上昇につながりませんが、位置情報を加味することで消費者にとって役立つメールに変えることができ、マーケティングの効果を改善できるのです」(平川氏)。
平川氏は、当該地域で開催されるイベント情報や、天候情報といったイベント関係者や行政機関が保有する情報も加えることができればさらにビジネスチャンスが拡がる可能性があると指摘します。
また、電通が愛媛県松山市と連携して展開している「スマイル松山」プロジェクトでは、健康、観光、防災をキーワードにして観光名所などへのアクセス情報と発信者の所在を示す緯度経度情報をリンクすることで、より効果的な観光案内を行ったり、地元企業をPRしたりと町おこしに役立てています。
平川氏は、「地域の情報は鮮度が命です。印刷媒体などでは情報が陳腐化していきますが、スマートデバイスを使えば最新の情報が手に入ります。このアプリはウォーキングマップと対応させることで健康増進のほか、有事の際には最寄りの避難場所を示す防災機能も備えています」と、様々な利用シーンを紹介しました。
ヘルスケア分野でもビッグデータが注目されています。福島県会津若松市では人口の25%以上が高齢者で占められています。
会津若松市 企画政策部企画副参事の高橋智之氏は、次のように述べました。
「医療福祉施策は施設介護や在宅での医療・介護へ比重を移しつつあり、地域で見守る必要性が高まっています。しかし、市職員だけで実行するのは至難の業。民間の力も必要です。ただ、企業やボランティアにしてもどこの誰がどんな助けを必要としているかわからないために動きようがないのが実情です。一方、行政には介護保険の認定者や療育手帳の交付者の所在などの情報を細かくプロットしたGISデータがあります。個人情報保護の観点から閲覧には制限がありますが、そうした情報の存在を民間の方にまず知ってもらうことが新たな解決策を生むきっかけになります。民間の提案をもとに市が改善に向けて取り組む、そういう土壌に変えていきたいと考えています」(高橋氏)。
これに付随して平川氏は「まちづくりに積極的なシニアや育休中の方など公共マインドを持つ人材を活用すること、また事業化していくには参加者のモチベーションを高めるプラットフォームを用意することがポイントです。一方、マーケティングにおいては特定の個人情報より統計処理されたまとまったデータがほしい場合もあります。プラットフォームの構築や個人情報の匿名化といったデータ処理に関する技術面での進展も期待しています」と述べました。
間宮氏も「ビッグデータを活用して、アルツハイマー病の早期診断システムの開発をはじめ、国がサポートできることに果敢に取り組んでいきたいと思います。官も民、学が連携してデータを利活用するために、さらに知恵を出し合う必要があります」と話しました。
いっそう求められる産官学の連携
これに対して、高橋氏は一つ課題を提示しました。「民間からの提案でよいものがあれば市は協力するつもりです。ただ、随意契約ではなく入札を行う場合に、提案した企業とは別の企業が落札してしまうことがあり、結果的に当初想定していた提案とはまったく違う内容の事業に変わってしまうことが少なくありません。そこで会津若松市では推進中のスマートグリッドにおける通信機器のインターフェース開発にあたって、補助金を国から直接ではなく、市を介して事業者に交付する間接補助制度を利用しました。交付対象は地域の金融機関や大学、地元のIT企業などからなる協議会です。この制度で入札を介さず、市が本来やってほしい事業を対象とする協議会に遂行してもらうことができました。現行法の中でも手立てがあることを他の自治体にも知ってほしいと思います」と述べました。
また、高橋氏は、「会津若松市では、東日本大震災復興特別区域法の第4条に基づいて、復興推進計画に関する内閣総理大臣の認定申請にあたり、民間からの提案を積極的に受け入れたいという意向があります」と、現行法制度の中で民間の創意工夫やアイディアをできるだけ多く取り入れる具体的な方策があることを紹介しました。
モデレータを務めた日本オラクル 製品戦略事業統括本部 戦略ビジネス推進部 部長 兼 エバンジェリストの首藤聡一郎氏は、「各種データの発生、提供、取得/活用、ビジネスアイディア創出、サービス提供、価値創出、という様々なプレイヤーが結び付くことが市場の形成につながります。産官学のシナジーにより、ビジネスや地域の活性化に是非つなげましょう」と締めくくりました。
(文責・柏崎吉一/エクリュ)