2016年2月22日、OGCシンポジウム2016「一億総活躍社会実現にむけて~ITに何ができるか」が全国町村会館(東京)で開催されました。本稿では、「OGCのビジョン」と題して行われたOGC代表理事 中村彰二朗 アクセンチュア株式会社 福島イノベーションセンター長の開会挨拶および、パネルディスカッション「一億総活躍社会に向けてICTに何ができるか?」の模様についてダイジェストで報告します。
■ 開会挨拶
OGC代表理事 中村彰二朗 アクセンチュア株式会社 福島イノベーションセンター長は開会挨拶で次のように述べました。
「地方創生や一億総活躍社会を国は掲げている。ただ、人口減少・高齢化、地域の衰退といった課題は、1,700強ある基礎自治体各々に任せきりでは解決は難しい。とはいえ国の補助はかつてのようにあてにできない。行政区域を超えて、オープンかつフラットに知恵や経験をシェアする姿勢が鍵になるだろう。また、住民一人ひとりが自らデータを主体的に活用して自らの行動を変えていくことが課題を乗り越えることにつながる。OGCも産学官、国内外の境界に捉われず、新たなチャレンジを進めていく」(中村氏)
現在、オープンガバメントコンソーシアムでは、現在8つの分科会が活動しています( https://ogc.or.jp/subcommittee )。
その中で、「ビッグデータ・標準化分科会」ではHEMS(電力消費測定装置の)インターフェース(API)の標準化によるリアルタイムのデータ収集の実現に向けて取り組んできました。また、「メディカル・コンバージェンス分科会」では社会保障費の適正化を見据えたPHR(パーソナルヘルスレコード)に基づく市民中心の健康保護モデルを、「サイバーセキュリティ分科会」ではCSIRT普及促進WGを組織して、各自治体に適用できる実践的なセキュリティ対策を、「高度IT人材育成分科会」では国内で発掘・育成する人材像とその環境について研究してきました。さらに「地方創生分科会(機能移転検討会)」では会津大学とも連携し、医療、農業、エネルギー、都市再生・観光など我が国の次代の産業を担うアナリティクス人材の育成・集積に重点を置いて取り組んでいると、中村氏は報告しました。
■パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、医療・健康、都市再生・観光、雇用創出・人材育成などをテーマに意見が交わされました。
モデレータの中村氏はまず、わが国の歳出に占める社会保障費の比率の上昇を示し、社会保障制度そのものの維持が早晩困難になる危惧を指摘しました。
それに対して、吉田宏平 総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報流通高度化推進室長は次のように述べました。「社会保証制度全体の設計・運用の主管は厚労省だが、総務省では健康や医療に関わるデータの活用やネットワーク化などのルール作りを進めている。全国に約170ある医療情報連携ネットワークは低廉化によって医療機関の積極的な参加を促したい。また医療機関の保有するデータや日々の食事・運動などのデータを国民一人ひとりがどの地域に住んでいても確認できるように進めたい。それにより疾病の予防に向けて個々人が自らの行動を変えることを促していく。また医療技術や創薬の進展に役立つ研究開発にデータを利用させてもらうことで国民一人ひとりの健康増進と社会保障費の抑制、さらにわが国の医療・ヘルスケア産業を成長分野にすることを目指す」と展望を示しました。
村井 遊 会津若松市 企画政策部 副参事は、「12万人都市の会津若松市も人口減少や高齢化に直面している。会津大学やさまざまな企業と連携してエネルギー施策や観光、産業活性化などにICTを生かすとともに、アナリティクス人材など若手を育成し地元への定住を図っている。PHRの推進もその一環だ。ただ、自治体だけでなく国や各業界団体、住民の協力が不可欠。会津若松では住民の意識を予防医療に向けるため、自分や家族が年間保険料を一体いくら払っているか、それに対して病気になった場合、保険からいくら支払われているのかを可視化する取り組みを進めている」と語りました。
市民主体の取り組みが実を結んでいるのがオランダです。会津若松市は、スマートシティー(環境配慮型都市)実現のための技術の国際標準化づくりで首都アムステルダム市と提携しています。
オランダに本社を構える株式会社ITプレナーズジャパン・アジアパシフィック 代表取締役社長・アジアパシフィック統括責任者 OGC理事 柳沼克志は、「オランダ政府はAirbnbに観光税を課し、ホテル業への参入を許している。既存ホテル業の抵抗もあったが、規制で縛るよりもやらせてみてイノベーションがもたらす経済効果を期待している。オランダはIoTを活用した新ビジネスにも積極的だ。同時に既存プレイヤーと新規プレイヤー、そこに市民、行政を交えてオープンかつフラットに議論しようという姿勢がある。オランダは1602年にいち早く株式会社(東インド会社)を設立したことで知られるが、投資家は企業家とリスクとリターンを積極的にシェアしている。そのチャレンジングな気風は、同国におけるシェアエコノミーの浸透に通じるものがありそうだ」と指摘しました。
中村氏は、「オランダは海抜が低く、欧州では辺境だ。しかし地の利を生かして魅力的な都市を作り、欧州で独自の存在感を放っている。日本の地方都市も素晴らしい魅力にあふれている。日本も東京ではなく辺境から変わっていくのではないか」と述べてディスカッションを締めくくりました。
◎パネルディスカッション登壇者(敬称略)
[パネリスト]
吉田宏平 総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 情報流通高度化推進室長
村井 遊 会津若松市 企画政策部 副参事
柳沼克志 株式会社ITプレナーズジャパン・アジアパシフィック 代表取締役社長・
アジアパシフィック統括責任者
[モデレータ]
中村彰二朗 OGC代表理事、アクセンチュア株式会社 福島イノベーションセンター長
(文責・柏崎吉一/エクリュ)